†第一章壱幕目† 『過去を失いし少年と強欲なる悪魔』

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   ここは契約の儀を交わす為の部屋。   中心には星をかたどる魔方陣が刻まれた石板が置いてあり、そのすぐ側には大きな古文書を持つ女性と一人の少年がいた。  「では、今から魔司書制定令第275条第8項に従い、契約者選定の儀に入りますよろしいですね? エイビドゥ・ブリーク・フール」  女性は淡々とした強い口調で少年に確認する。  「は、はいっ……!?」  少年は緊張しているのか声を震わせ、肩が上がったままの状態で返事をした。  「…………では、契りの言霊と契約者の選定を」  女性は少年を返事を聞くとそう言い、パタッと古文書を閉じて脇に抱え少年の様子を観察しはじめた。  「…………」  うわー、緊張どころじゃねぇ泣きそうになってきたよ!! 大丈夫かな? いや多分、大丈夫だ。言霊も覚えてきたしな…………昨日徹夜でだけど……。  様々なことを頭の中でめぐらせた後に少年は息を整え、目を一度閉じて集中した。   そして、場に静寂が張り詰めると少年はゆっくりとその口を開いた。  「……我今選定の儀を行い求める者なり、我が名はエイビドゥ・ブリーク・フール。血と光と闇と命とに誓い、力を欲す。我が求めし力は…………魔なり」  「……っ!?」  ずっと静かに静観していた女性が少年の言葉を聞き、驚愕し、先ほどまでと違い困惑した表情を見せていた。  「我選定の魔よ、我が契約者となるべき者よ。今我が眼前に現れ、我と共にあれ我と共に――」  「うるっせーなー。んな、グダグダ言わなくてもさっきからここに来てるっつーの」   少年が言葉を続けていると、いきなり部屋のすみから少年の言葉を遮るように返事する者がいた。  「……お、お前が俺の契約者!?」  少年は、驚きのあまり思わずそれを指さし問い掛けた。    すると、いきなり少年の指が不思議な力で無理矢理押し戻される。 「痛ってぇ!?」 「我が主よ。他人を指さすなって親に教えられなかったのかい?」  悪魔の手からはなたれた魔力で少年の指は無理矢理折りたたまれていた。   しかも、その悪魔は少年が想像していた予想とは遥かにかけ離れた姿だった。  「え? 悪魔ってもっとでかくてかっこいいのじゃないの?」 「あーん。十分かっこいいだろが」  少年の言葉は仕方なく、その悪魔の姿は少し大きめの黒猫に黒翼と角を生やしただけの可愛らしい姿だった。
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