聖水

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   春である。春といえば登山である。今日も前途有望な若者2人が額に汗を浮かべつつ、遥かな頂き目指して力強く大地を踏みしめていたのである。 「山は、いい。空気も、いい。私の心も、清々しくなる。私は少々、汚れすぎていたようだ。いけないね」  ひとりの男が遠い目を空に向けつつ、陶酔しながら呟いた。 「出た! シンヤ先輩のポエムだ! ああっ、僕もシンヤ先輩のような詩人になりたい!」  シンヤの後輩である青年は、目を輝かせて言った。シンヤは青年にとって憧れの先輩であった。余談だが、彼は創●学会とアム●ェイの会員でもある。 「ポエムは、私のポリシーなんだ。 そして同時に、弱点でもある」  後輩に向かって寂しげな顔を見せるシンヤ。 「シンヤ先輩、ポエムにはなにか秘密が……」 「それは、言えない。組織が……」 「組織……シンヤ先輩、それはいったい? うっ、ァッ-ーーー!」  後輩が突然、悲鳴を上げる。何が起こったのか。 「どうした?」 「シンヤ先輩! サソリに咬まれた! 毒がッ! 毒がーーッ!」  サソリの毒で万が一死ぬこともある。後輩は、痛みと死への恐怖で地面をのた打ち回った。 「大丈夫だ! 私に、任せろ!」  シンヤは力強い声で、後輩を励ます。 「先輩……」 「私が、なんとかする。君は、聖水を知っているかい?」 「聖水?」  そんな非現実的なものを果たしてシンヤが持っているのだろうか? 後輩は疑問に思いつつも、しかしワラにもすがる思いでシンヤの顔を涙を浮かべながら見上げるのだった。 「聖水。またの名を、黄金水という。私の力を、信じたまえ」  そう力説しながら、シンヤはやおらズボンを脱ぎ捨て、露わになった男性自身を後輩の傷口の方へ向けるのであった。 「シンヤ先輩! ぼ、僕はそんな趣味は! お、お助けーーッ!」 「心配ない。アンモニアは、毒を洗い流すのに、都合がいいんだ。さあ、いくよ」  シンヤの男性自身から、聖水が今にも発射しようとしている。 「やめてーーッ!!」  グシャ  醜い音が山々に響き渡った。
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