気持ちの行方

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   はっきりとお断りしたにも関わらず、それでも引き下がらない綾花を見て、朔良は、幸い教室には誰もいないし、口にさえ出さなければ、先に帰った芹佳に知られることもないだろう、と意地悪な行動に出た。  ゆっくりと席を立って、窓辺にもたれる綾花の正面に向き直ると、その表情をまじまじと見つめた。 「例えば……」  身体が密着するかしないかの距離まで近づいて、吐息が感じられる程近くで、朔良は鋭い眼で綾花の瞳を覗き込む。  一瞬、身体を強張らせた綾花だったが、悟られまいとしているのか、朔良を見つめ返して、言葉を待った。  沈黙に満ちた教室に緊張が走る。 「愛人て言うくらいなら、俺が求めたら、黙って身体、差し出すんだな?」 「……遠ざけようとして、わざと言ってる?」 「いや……」  口調から僅かに感じられる綾花の動揺に気づいて、朔良は口元に笑みを浮かべた。  ポケットの中に入れていた手が、綾花の喉元に向かう。
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