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綾花を恋愛の対象として見たことはない。
それでも、振り絞った綾花の勇気を思うと、朔良の鼓動も、うるさいくらいに脈打つ。
速く落ち着きを取り戻したくて、胸元を掴んだ。
(俺が好きなのは、芹佳1人だ)
深く息を吐いて、朔良は自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
卒業までの間…――。
芹佳がいる限り、蔵本 綾花を必要とする日は来ない、と思いながら、朔良も教室を後にした。
10月の終わり、卒業までまだ遠い、紅葉が綺麗な秋の日、だった。
――12月初頭。
あれからまる1ヶ月、2人の関わりは皆無だ。
唯一、変わったと言えば、時々、綾花を眼で追っている自分がいると自覚したくらい。
芹佳がいる手前、気づかれてはいけないと、視界に綾花がいる時だけ見ている程度だが、朔良の中で、気になる存在になっていた。
「芹佳、今日、寄り道していかないか?」
「あ…、ごめん、今日は沙穂(サホ)と約束があるの」
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