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山道に入ると、坂のために荷車は重くなった。だがその代わりに、木々が頭上を覆ってくれるから涼しくなる。
「おい透夜。もっとゆっくり歩け」
後ろから荷車を押していた健太が、息を荒げながら低い声で言ってきた。
涼しさからか、自分でも気づかないうちに歩くスピードが上がっていたのかもしれない。
「ごめん健ちゃん。キツいならもっと早く言ってくれれば良かったのに」
荷車のスピードを緩めると、小石に車輪が跳ねて大きな音を立てた。速く引いた方が障害がなく軽く感じるのだ。
「……違ぇよ。早く終わらせたらヤグラの組み立てまで手伝わされるだろが」
「あぁなるほど」
切れ長の目が苦渋の色に曇るのに、僕は納得して笑った。
確かにヤグラの組み立ては重労働だ。去年までは四年生だったこともあり、手伝わされる心配もなかった。
だが今年からは高学年。この村ではコトナ扱いされる年だ。子供と大人の中間地点であるコトナ。なんてバカバカしいネーミングだろうか。でもこの村ではコトナになると色々と扱いが変わる。特別な年頃。
「でも僕はまだそんな心配ないもんね」
本気で嫌がる健太に歯を見せる。
健太と違い、僕の身体はもやしっこそのものだからだ。いくら食べてもひょろりとしていて力も弱い。背も低いし色だって白い方だ。だからまだコトナ扱いを受けていない。
まだまだ子供だと大人に言われる度に、少しだけ悔しく思っていた。
「だから急いでやるっ」
「あ!待てコラ」
急激に上げたスピードに健太の怒声が追ってくる。
構わず駆けるこの足も、やるせない悔しさを隠すためだって……自分でもわかっていた。
「違うんだって透夜!俺が嫌なのは組み立て作業じゃなくて……あいつらと話すことなんだってば」
「あーはいはい。健ちゃんは爺さん達にも人気だもんね!」
ムスッとする僕の背中に尚も健太が食い下がる。
「違うってば!俺が苦手なの知ってんだろ?あいつら……」
途中で口を噤んだ健太を振り返る。冷たい声が前方から降りかかることで、ようやく健太の言葉の意味を理解した。
「お疲れ様」
「お疲れ様」
二重に重なったような声が一気に汗を引かせた。健太の顔は強張っている。
恐る恐る視線を前に戻すと、予想通りの二人が立っていた。
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