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ポツ、ポツ……サァ―――――……
あの日、空は泣いていた。
俺はただ真っ白な棺とあふれんばかりの花を見つめていた。
あぁ。もう会えないのか。と。それだけ思っていた。
ぼーっと立っていた。何時間も何時間も。花と棺だけを見つめて。
ふいに肩をつかまれ力一杯抱き締められた。
俺は一瞬何も理解できずにただ自分を抱き締めている人間を見た。
三つ歳の離れた兄だった。
彼は力のかぎりといったようすで俺を抱き締め、涙で濡れた顔を隠すようにして言った。
『泣いて、いいんだ。……俺が……守ってやるから』
そのとき俺は初めて自分のなかの引き裂かれるような悲しみに気付いた。
そしてそのまま、震える腕で一生懸命抱き締めてくれている兄の胸でひたすらに泣き続けたのだ。
兄はもう一度呟くように
『俺が……守る…』
と言った。
俺は応えるようにしがみつく腕に力を込めたのだった。
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