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長い間沈黙を守り続け、ひっそりと佇む家屋は、静寂に溶け込み、闇と同化していた。
風雨に晒されて壁は剥がれ落ち、木造の扉は骨組みを露にし、膝丈程まで伸びて立ちはだかる雑草は、そこに立ち入る者はいないのだと無言に語っていた。
ただ、風に揺れ、時の流れとともに朽ちていく。
割れた窓ガラスの傍では薄汚れたカーテンがはためき、その奥で柱にしがみついていた額が支えを失い音を立てて落下した。
また一つ、形あるものが残骸へと変わり果てる。
静寂を切り裂いたのは一瞬。
固まった埃を纏わりつかせたまま砕け散った硝子の様に、かつて、笑い声が絶えなかっただろう記憶さえ、広がる闇は呼び起こさない。
あと何年その姿を保っていられるだろう。
漆黒の空は答えない。
風に掠われた雲の影から光を注ぐ月は、淋しく微笑んでいた。
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