4人が本棚に入れています
本棚に追加
二時四十四分、時計の針はそこで止まり、覆う硝子には真っ二つに亀裂が入っていた。
まるで、此処に来た証明とでもいうように。
あの幼子が、何故、現れたのか、彼女自身、知る由もない。
ただ一つ言えることは、姿を消した後もどこかを彷徨い、差し延べてくれる手を待っているのだろうということだけ。
生前の姿とは形を変えた存在として。
その念いが、満たされるまで……。
ようやく静寂が訪れた部屋で、深く息を吸い込み、安堵の溜め息をつく、刹那…――。
彼女はそのまま息を呑み、一点を凝視した。
日焼けを知らない真っ白な肌に浮かび上がる鬱血の、痕。
今まさに咲いたばかりの花のように、彼女の皮膚を彩る。
やがて、それは鮮やかさを失い、青ざめていった。
おねえちゃん、いっしょにいこう…――
彼女の脳裏に刻み込まれた記憶が、耳の奥で木霊する。
形在る者は、その姿を変えても在り続ける。
現世への念いに、縛られて。
彼女の瞳からはとめどなく涙が溢れ、止めることはできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!