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あの幼子が残した念いは、彼女の心を通り抜け、胸に傷みを遺す。
もの心つく前に母親を失い、また自身も不幸な事故でこの世を去ったのだと知って、彼女の中に生まれた恐怖心は息を潜め、憐れむ気持ちで一杯になっていた。
短く息を吐いて、そっと涙を拭って、彼女は風に揺らぎはじめたカーテンの傍まで行き、ベランダに出た。
心地良い風が汗ばむ肌を撫でつける。
「淋しかったんだね……」
優しく差し延べて欲しかったのだと想うと、そんな言葉が口をついて出た。
それは穏やかな風に乗って、消えた。
「おねえちゃん、わかってくれたんだね」
「え…――」
耳元で、再び聞こえた声に、彼女はぎこちなく振り返った。
「ひとりはさびしいの。だから、いっしょに、逝こう」
触れられた足がちくりと痛み、バランスを崩して見上げた先には、見開いた瞳で彼女を見据え、口許に嬉々とした冷笑を浮かべる幼子の姿が在った。
目の前に迫り来る手が、静かに彼女の首筋を捕える。
無邪気な悪魔が、そこにいた。
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