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島峰は歩みの速度を変えずに、ドアから注意をそらす為、小林から遠巻きに女性の方へ進む。
小林の右手を見る。
細長い精密ドライバーの様だ。
「…なんで沼田を刺したんだ?お前の先輩じゃないか…」
「…コイツ、口ばっかりなんですよねぇ~…はっきり言って限界なんですよねぇ~…だから、殺しちゃえばスッキリするよって言うから…」
「…誰が?」
「オレがですよ~…もう1人の…へへっ…スカッーとしましたぁ~」
…こいつ何言ってやがる?…
「おい、お前、警察官だろ?分かってんのかよ?自分のした事が…」
「…へっ?…けい…さつ…?…」
小林は自分の足下を見た。
沼田が手で首を抑えて、自分を見ている…
その手の隙間からは夥しい血が止めどなく流れている。
「…俺…警官…」
自分が右手に持っているドライバーを、目の前にかざした。
「…ヒッ!…ヒィッ!…」
小林は我に帰って、自分の行いを認識して怯えの表情を見せた。
「小林、それを渡せ…」
島峰が手を差し出し、渡すように促した。
「…俺…俺…俺俺俺…ヒィ~!…」
小林は興奮してきた。
「…もうダメだぁー…俺、警官なのに、…もうおしまいだぁー…近寄るなぁー!」
小林がドライバーを振り回し始めた。
―ゲームオーバーです。メグムさん―
「…えっ?…ゲームオーバー?…」
声がして、小林はキョロキョロと落ち着きなく、辺りを見回した。
「小林、どうした?!」
島峰が訊いた。
「今、声が聞こえたでしょう?ゲームオーバーだって…」
「何も聞こえなかったぞ…どうした?」
「えーっ!?はっきり聞こえましたよ!」
―メグムさん…後悔しましたよね?ペナルティですよ―
「なんだよ!?俺は後悔したのか?」
―そうです―
―さぁ、死んで下さい…どうせ、あなたの人生は、もう終わりです…生きていても仕方がないでしょう?―
中性的な〔声〕が、小林だけに囁く。
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