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小林メグム28歳、男性、独身。
彼はネットを見ている。
趣味ではない。
仕事だった。
「小林、どうだ?あの掲示板で予告したクサそうなヤツ見つかったかよ?」
先輩である沼田キヨシが小林に訊いた。
「…それが、なかなかそれらしいヤツが見つからないんですよねぇ~」
「相変わらずお前は使えねぇな。何時間探してんだよ。」
沼田は鼻で嘲笑いながら、皮肉を言った。
…また先輩ヅラで、皮肉かよ、コイツ…ウザってーヤツだな、オレより仕事の半分も出来ないクセに…
ここは、S県警生活安全課サイバー犯罪取締分室。
通称『ネット犯罪課』。
小林も沼田も警察官だ。
インターネットによる犯罪が多発する現在の社会において、このS県警の管轄においても、ネットによる犯罪被害者が後を絶たない。
オークションによる詐欺行為、女性に対するメールでのセクシャル・ハラスメント、個人を含め、情報を不正に入手するハッキング行為…。
その犯罪行為は多岐に渡り、事実上ネットは今もって〔無法地帯〕である…。
この事態を重く見た警察庁は、通達により各県警にインターネットによる犯罪の取締りに部署を設置し、対応する旨を下した。
しかし、匿名性が顕著なインターネットの世界では、犯罪行為を突き止め、検挙に至るまでの時間が普通の刑事事件よりも大幅にかかってしまうのが現状と言えた。
やっと場所が特定でき、捜査令状を持って現場に踏み込んだ時、部屋はパソコン1台で後はモヌケの殻…等と言う事は珍しくない、困難な雲を掴む様な世界だ。
そんな状況の中、小林、沼田を含めた分室は総勢で8名、交代勤務で24時間態勢で捜査に当たっている。
この日も、あるPCサイトの掲示板で、県庁爆破の書き込みがあり、そのネット捜査の最中だった。
「おい、小林、予告の時間まで後4時間だぞ。早く見つけろよ!」
沼田が小林を急かす。
「…分かってますよ!そんな事!沼田さんの方はどうなんですか!?」
小林がイラついて訊き返した。
「人の事はいいだろう!お前、今の状況分かってねぇだろ?」
…この野郎、ふざけやがって!
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