田辺未亡人

1/1
前へ
/37ページ
次へ

田辺未亡人

恐怖に怯える男が未亡人には、禍禍しく、いかついヤクザの様に映って居る。気になって落ち着かないが 何故面識の無い男が解るのかそんな事にはお構い無し。 未亡人は忙しい。 「さあ 貴方 ちゃんと召し上がって下さい」 その唇に いや かつて 唇だったおぞましい物に未亡人が スプーンを運ぶのは 毎日の日課で もう一月が過ぎた。 そこにうごめく無数の正視に耐えない それは 格好の餌場と化した。 生前の面影はみる影も無い。 この老人は未亡人の亡き夫。 愛する人の死を 受け入れる許容範囲が見事に崩れてしまったようだ。 未亡人の胸で砕ける音が聞こえた 同時に何かが芽生えた。 未亡人にとってそれは 決して有難い物ではないが その力に驚くどころか全く意にかいさず 自分の殻に入って行く。 「ヤクザ 出て行け・・・」 小さく呟いたその先に 数メートルと離れていないその先に 恐怖に好かれた男が横たわる。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加