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―学院内・庭園―
もぐ…もぐ…
ミレは読書を邪魔されたためか、どこか不機嫌そうな顔でパンを頬張る。
アリシアは対照的に、ニコニコしながらパンを食べている。
二人が座っているのは庭園の中で最も大きな、"紺碧樹"と呼ばれる木の下。
まださほど日差しが強くはないが、ここはとても爽やかな風が吹き気持ちがいい。
ちなみに本日の昼食はチーズサンド。
朝アリシアが用意したものである。
「どう?ミレ。おいしい?」
木漏れ日の中、ミレの顔を覗き込むようにしてアリシアが尋ねた。
「…別に、こんなものは誰が作っても同じ…」
「…。」
「美味いな。」
ミレはいつもの調子で答えようとしたが、隣から禍々しいオーラのようなものを感じてすぐさま答えを切り替えた。
危うく平和な庭園が戦場に変貌を遂げる所である。
「でしょ!今日のは力作なんだから!」
満足のいく答えを得られて、笑顔になるアリシア。
そんな様子で食事をする二人に、真正面からゆっくりと一人の若い男性が近付いてきた。
男は二人を見下ろすと、額に青筋を浮かべながら口を開く。
「オマエら。こんなところで堂々とサボタージュとはいい度胸だ…」
男の名はカリオス。
28歳で、学院の教師。
第113期…つまりミレのクラスの一年次担任であり、講義は水魔法を受け持っている。
そして今まさにその水魔法の講義中であり、二人がいる場所は教室からまる見えなのだ。
カリオスは腕を組み、ジロッと睨むようにしてミレを見る。
「ミレ・ヴァイナール。
オマエに至っては今日も一限の最初のほうにしか出席していないな。
どうだ?弁明があるなら言ってみろ。」
「だって先生、ここ人気の場所だから昼休みになると取られちゃうんですよっ!」
アリシアはカリオスに笑顔を向けると、あははっとはぐらかすように言う。
カリオスの額の青筋が一つ増えた。
「…眠くなる。」
続いてミレがポツリと放った言葉に、カリオスの青筋はピクピクと震え出す。
「…クロノス。ヴァイナール。
どうやらオマエらは本気で俺を怒らせたいらしいな…」
「あ、先生!
怒りっぽいのは体に毒ですよ!」
「…早死にするぞ。」
―…ブチッ…―
二人の追い討ちに、カリオスの何かが切れる音がした。
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