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「ようやく最後の一匹」
そう呟くと杏は、またもやコンビニで買ったビニール傘を中段で構えハチャメチャに振り回し始めた。
一生懸命に振り回す格好が、なんか可愛らしい。
さて、ここは日本だ。
勿論野生の狼などいない。
さらに言うならば、この場所に狼などいない。
それでも杏は虚空に傘を振りおろし、思い出したかのように蹴りを放つ。えい!やぁ!とぅ!って感じに。
戦いもとうとう終盤にさしかかったようだ。
前蹴りを二連放った後に、杏は勢いよく地面に向かってかさを突き刺した。
「無事に今日の襲撃も迎えうてたんだな」
額からうっすらと汗を流し、戻ってきた杏に俺は声をかけた。
「でも、狼男はまたこちらをみているだけ。私を掌で弄ぶ様に狼と戦わせて楽しんでいるだけだった」
杏はどこか不満そうに傘を握りしめた。
狼などいないし、狼男などもってのほかだ。
それなのに杏はその狼を倒し、狼男を見たという。
妄想。
それらは杏の妄想なのだ。
狼と狼男の襲撃は、決まって夜の12時。
場所は杏のいる場所から半径10キロ以内。一時間前に出現場所が分かるらしい。杏曰く、分かるのは吸血鬼の能力だそうだ。
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