その男はコピーする

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ラジオからは桑田佳祐のクリスマスソングが流れていた。 11月も中を過ぎると毎年の事だが、人も街もクリスマス一色になっていく。 何一つ外の変化を知らせる機能のない塀の中では、休日に流れるラジオだけが、外の世界との接点だ。 そんな感傷に浸っていると1メートルも離れていない場所から桑田佳祐の声が聞こえる。 『な……き 菊地くん』   『どう 上手いでしょ』 少し照れながらもラジオから流れる曲に乗せてモノマネを披露してくれる。 『おー 似てるー スゲーよ』 お互いハハハと笑い合ってラジオのDJの次の曲紹介に耳を傾ける。 すると隣の三号室からクリスマスソングとは、程遠い放屁の音が聞こえてきた。   ぷぅううう……ぷっ   今 一度確認するが、ここは留置所。 少なからず、犯罪もしくは犯罪に準ずる事をしたと思われる人が取り調べの為に留置される場所だ。 何がキッカケで問題になるかわからないので、生理現象を笑うなんて事も、ルールとしてご法度なのだ。   ぷぅううう……ぷっ   俺の側から さっきとソックリな音が聞こえた。
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