忘れ物

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【2008年6月18日】 昨夜、0時30分。先に布団に入っていた嫁が、眠気と闘うようなか細い声で私を呼んだ。扉を隔てているために最初は幻聴かと思ったが。 嫁は自分が眠たいと人まで寝かそうとする。いつものこと、と私はテレビを観ていたので無視することにした。 しばらくしたら眠るだろう。 しかし声は続く…。 細い声で名前を途切れ途切れに呼ばれるというのは、なんとも気分の悪いことだ。 仕方なく嫁のところへ行った。 嫁は布団にくるまり目を瞑ったまま言った。『自転車を忘れた』 ………? 寝惚けているのかとも思ったが、どうも前日に里帰りした際、行きは自転車で最寄り駅まで出たが、帰りは車で自宅まで送ってもらったらしく、自転車が駅に置いたままになっているという。 しかしなぜ日中、取りに行かなかったのか?答えは明快だった。『今、思い出した』 嫁の自転車は、その存在を36時間消されていたことになる。 そして嫁が私を呼んだ理由は一つ。 『取りに行って』 布団に横になったままとは、人にものを頼む態度ではないが、私は何故か了解してしまった。
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