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彼はハンドルを握ったまま割れたフロントガラスから突き出している一本の枝を見つめたままになっていた。それはあと数センチで彼の顔面を貫くところにあった。単調な警告音だけが車内に響き渡っていた。
[だいじょうぶ?]
先に口を利いたのは彼女の方だった。
[おう]
彼はそう答えたが苦しそうだった。
[脚が挟まった……抜けないかも。おまえ、悪いけど人を呼んできてくれないか]
彼女は初めて彼の不安そうな顔を見た。いつも車に乗ると自信に溢れて見えた彼が今にも泣き出しそうな顔をしていた。
彼女は車外に出ると彼の方に回った。太い木の幹が運転席のドアを潰していた。車の前方も木が塞いでいた。しかし、この木がなければ車はそのままこの先にある崖から落下したのだと思うとあらためて友達はゾッとしたという。
ポケットから携帯を取り出したが表示は<圏外>だった。
[それで彼女は助けを呼びに行くことにしたの]
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