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大まかな地名は耳にしていたものの、個人的には何の趣味もない峠道では何をどうして良いのか見当もつかなかった。
仕方なく彼女は下へと下りることにしたという。
歩き始めてみると、やはりどこかをぶつけているらしく妙なところがじんじんと痛みだしてきた。
すると霧雨が降り始めてきた。外灯の少ない夜道の光景を煙幕のように雨が塞ぐ、通り過ぎる車は一台もなかった。濡れていく体を両手で抱くようにして進む。振り返ると曲がったばかりのカーブが既に見えなくなっていた。携帯の電波を気にしながら歩いたが、寒さとショックで体が時折、震える。夜気に冷えた脚が、ガクガクと言うことを利かなくなった頃、前方の闇のなかからエンジンの低い唸りが耳に届いた。
バンがあった。
上り車線に停まったそれのヘッドライトは消えており、車幅灯だけが霧雨の中、ぼんやりと浮かんでいた。
彼女は駆け寄ると車内を覗き込んだ。
運転席に人影はなかった。
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