峠で壊れて

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 相手は刺されるがまま、悲鳴ひとつ上げなかった。 男たちの汗と脂の混じった体臭と別の臭いき吐き気がしてきた。  シートの男が体勢を変え、ギシギシと背もたれが鳴る度にいきなりドカンとバールで刺されるのではないかと気がおかしくなりそうになった。  我慢していることに耐えきれずに叫び出したい衝動に何度も襲われたが、その度ごとに彼女は自分の太股を思い切りつねり上げ、正気になろうと努めた。  するとポケットに触れた手に硬い物が当たった。携帯だった。取り出すとアンテナが立っていた。 <たすけテ>  彼女は彼にメールした。   <どこにいるの?>  暫くして返事があった。   <へんなおとこのばんにのっちゃったの> <変な男?どうしたの>
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