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「裕くーん、僕も教わっていいかなぁ?」
浮き輪の中に入ったまま杏里さんが頼んできた。泳ぐ気があるのか?
「分かりました。でも少し澪が泳ぎたいらしいので見ててください」
「いいよー」
無邪気と言おうかのうてんきと言おうか。杏里さんの笑顔は謎に包まれるばかりだ。
「クロールだからまずはバタ足からが基本だ。してみてくれ」
澪は顔を水に浸けてバタ足を………バタ足?
全く水しぶきが上がってないし、全く進んでいない。
そして、
「………ぶくぶく」
沈んだ。
っと、見てる場合ではない。澪を助けなければ。
海の中から澪を抱きかかえ、陸に戻った。
「澪、大丈夫か?」
「澪子ちゃん………」
「私には無理、泳ぎたいけど泳げないんだ」
澪が強く拳を握っている。自分が悔しいのか。
「まだ諦めるのは早い、いきなりできる人間なんかこの世にいるはずがない。少しずつでも上手くなるんだよ」
俺は澪に手を差しのべる。
「もう一度だ」
「………うん」
澪は俺の手を握った。俺に初めて見せた笑顔だった。
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