21717人が本棚に入れています
本棚に追加
振り返るとうつむいた澪が俺の服の裾を掴んでいた。
「澪?」
「い、いかないで………」
弱々しい声、震える体。俺は驚かされた。
「違うよ、用事があってだな」
「ごめんなさい、いかないで………」
服を掴む力は次第に強くなり、震えも大きくなっていく。
やがて澪からいくつもの滴が落ち出した。泣いている? それを涙と判断するのに時間はかからなかった。
「いかないで、いかないで………」
何度も呪文のように口にする。注意深く聞かないと聞こえないくらいの小さな声だ。
「少年、ちょっといいか?」
琉李子さんが俺の前に仁王立ちした。その表情は真剣そのもの。
俺は声が出せなかった。
「澪、少年はどこにもいかないから、手を離しなさい。杏里、澪を見てて」
「うん、分かったけど」
「少年、こっちだ」
琉李子さんに手を引かれて俺はどこかに連れていかれた。
最初のコメントを投稿しよう!