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うーん、見た感じ浴衣に損傷はない様子。よかったよかった。
「よいしょっと。もー、汚れちゃったよぉ」
浴衣をはたきながら不満そうな顔をする。浴衣の色は黒だからあまり汚れは見えない。
杏里さんの浴衣は全体が黒に染められており、所々に赤い花の刺繍が施されている。
普段の無邪気な女性と違い、大人びた様子が演出されていた。
「裕君、行こっ」
杏里さんが俺に手を差し出す。俺にはそれが神々しく輝いて見えた。
「あの、えっと……」
少しだけ躊躇った。さすがにこの歳になれば女の人と手を繋ぐのは恥ずかしい。
「もう、えいっ」
不意に俺の右手は包まれた。
「あっ、はわわっ」
「お祭りにしゅっぱーつ」
杏里さんは元気に腕を振って歩き出す。俺はその身を流れに沿って動かすだけ。
手から暖かみが伝わってきた。同時に顔まで熱くなってしまった。
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