風物詩、夏祭り

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「裕君、あーん」 たこ焼きが俺の眼前に現れる。杏里さんはしゃがんでそれを突き出していた。 「あ、いや、いいですよ。杏里さんが買った物ですから食べてください」 「むー、僕の好意を無駄にしちゃうっていうのー?」 頬を膨らませ近付いてくる。本音を言えばすごく食べたいです。 しかしこの場は人がたくさん行き交う通路。そこのど真ん中で堂々と恥ずかしいことはできないという結果だ。 「僕、怒っちゃうんだからね」 はたして杏里さんに怒るということはあるのだろうか。優しすぎるこの人に怒りはない気がする。 「はい、食べささせていただきます」 結局の結果はこれ。食べささせてってなんだよ。 「それでこそ裕君だ。あーんしなさい」 「あ、はい」 半ば強制だが俺は口を開いた。その中に杏里さんがたこ焼きを一個入れる。 「あーん」 笑顔でそんなことされるととても恥ずかしいです……
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