風物詩、夏祭り

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「裕君も欲しいでしょ? 僕には裕君の思ってることなんてすぐ分かっちゃうんだから」 読まれていた。昔からよく顔に出るって言われるけどまさにその通りなのかね。 杏里さんが口から綿菓子を離すと鼻の上にちょこんと白い雪のようなものが乗っていた。 当然のごとくあれは綿菓子。鼻に付いちゃったのに気付いてないのかな。 「裕君、はい」 そうとは知らず、たこ焼きの時と同様に綿菓子を俺の目の前へ突きつける。 世話が焼けるというかなんというか。 「杏里さん、ちょっと動かないでくださいね」 「えっ……ひゃっ!」 しゃがみ込む杏里さんに近付き、鼻の上の雪を人差し指ですくった。 「これ、ついてましたよ。気付きませんでした?」 「う、うん……」 杏里さんの白々しい頬が徐々に赤くなるのが確認できた。そして俺も気付く。 息と息のかかる距離、言い替えれば零距離。 どんな理由かわからないが俺達の行動はなくなった。時が止まったかのように。
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