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俺は声に誘導されているかのように走り続けた。そして大いなる人の波から抜け出した。
「裕君っ!」
そこに杏里さんはいた。俺と一緒にいた時と同じ浴衣に変わらない声。ひとつ違うのはうっすらと目に涙が浮かんでいる。
その理由は目線を上げるだけで一目瞭然だ。
「ん? 誰だ、このガキは?」
見知らぬいい男(俺はノンケだ)が三人もよってたかって杏里さんを囲んでいた。
おそらく大学生か社会人か。俺よりわずかに年上という雰囲気が出ている。
「この女の弟か何かか?」
「まぁ俺達には関係ないがな」
男共はバカ笑いを始める。俺はうつ向き、拳を力強く握り締めた。
「こんなガキはほっといてどっか遊びに行こうぜ」
「いやっ、やだっ、裕君、裕君!」
俺の怒りは頂点に達した。杏里さんに気安く話しかけるんじゃない!
「やめろ、その薄汚い手で杏里さんに触るなっ!」
俺はただただ叫んでいた。
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