風物詩、夏祭り

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人の波からどんどん離れていく。騒がしい声も小さくなっていく。 どうやら杏里さんは人が多いのが嫌いみたいだ。一緒に歩くだけでよく分かる。 そこは俺も同じ。大人数で固まるより一人でポツリといる方がいいってことの方が多い。 雑談を交しながら進んでいくとある場所の一角に来た。 辺りは暗く、潮のさざめきが耳に届く。風の流れによって磯の匂いも嗅ぎ取れる。 ――そうか、ここは砂浜だ。 「うーん、やっぱりここはいいねぇ」 俺もこの意見に賛成だ。さっきまでバカみたいにうるさかった場所とは正反対だ。 隔離されたかのような静かな空間、広大に広がる海、俺の心を落ち着かせる。 「よいしょっ、と」 俺の横で杏里さんが腰をかける。 「裕君も座りなよ。砂だからあんまり汚くならないと思うよ」 この催促に少し頬が熱くなった気がした。 「それじゃ、お邪魔します」 俺もちょこんと座った。恥ずかしく感じてしまうのはどうしてだろうか。
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