風物詩、夏祭り

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「だから、だからね――」 杏里さんの声は空に広がる光と同時に放たれた音によって遮られた。 「あっ、花火だ」 俺も目線を上に切り替える。様々な色によって花火は美しく描かれる。 「綺麗だねぇ」 「そうですね」 落ち着いた所でのんびりと花火を見るのもなかなかだ。本当に綺麗としか言葉が見当たらない。 河原でするちっちゃな花火も捨てがたいけどインパクトはこちらの方が断然大きい。 これが花火なんだよな。 どうやら杏里さんも見入ってるようでそわそわしている。 もしかしたら俺よりも子どもの心があるのかもしれない。俺と一緒にいてくれる杏里さんは大好きだ。 「あの花火……たい焼きみたいだぁ」 俺の目に映る花火。確かに魚の形という見たことのないような滑稽な形だ。 杏里さんの頭の中では魚=たい焼きとなってるのだろうか? 少なくとも俺はそうは思わない。ただの魚だ。 そわそわしてた原因はこれか。本当に食べ物に目がないな。
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