壱 負け犬も歩けば云々

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 そのまま、思ったことを口にすると、 「昔は昔でいろいろ首突っ込んだんだけどね! なにしろ具体的な証拠とかは捨てちゃっているからなぁー。あのね、今の二年生、姫とヒコヒコの学年でどうしようもない男の子がいてね、その男の子があまりにも周りに迷惑をかけていたから、その男の子の件でどたどた動いたとか。それが一番最近のことだけど。あと は昔には私が何とかしたいなーって、解決したいなーって言う、警察が絡んでこないような事件に突っ込んでいったりしている。それと何か、楽しければなんでもするって公言しているからね! 相談にしに来る人がいたりするし、そういう人たちの持ち込んだものに対しても活動するって感じ。でも最近さっぱりでつまらないね」  放課後に保健室に集って、話したり遊んだりするだけ。俺はそれで十分なわけで。時間潰しこそ、俺がこのGHQに入っている意味。  確か、木島は勉強がしたいからという理由でここにいる。勉強だけなら、他にも場所はあるはずなのに、と思っていたら、ほとり先輩がいることに意味があるらしい。驚くべきことに、ほとり先輩は三年生の中で学力面からすれば五本の指には入るらしい。恐るべし、ほとり先輩。木島も一年生でトップレベルの成績、 俺からすればどうにも上手い言葉が出てこない。 「じゃあ、どうするんですかね?」  木島が細いフレーム眼鏡をくいっと上げる。もしかしたら、木島もほとり先輩の電波に犯されているのかもしれない。なんだか、この木島何かやりたそうな雰囲気がしている。 「そうだね、このまま何もしないのもつまらないし……。でも平和なんだよね」 「平和が一番ですよ、何よりも。わざわざ事件が起こってまで、行動したいなんて不謹慎ですから」  穏やかにのんびりした学園生活が一番だ。確かに昔の俺なら、別のことを言っていたかも知れない。けれど、今は違う。何も起こらないのなら、何も起こらないでいい。なによりも、争いたくない。対峙したくない。落ち着いた位置で、落ち着いていることこそ、最も賢い行動だ。
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