壱 負け犬も歩けば云々

12/18
前へ
/99ページ
次へ
 どさどさと雑誌や本を片付け、バッグに詰め込んでいく。ちょ、この先輩目が本気。俺はほとり先輩にそんなところへ行ってもどうしようもない、そもそも入れない、というかそういった変態行為に走らないでください、と説得しようとするも、馬の耳に真珠を詰め込むようなもの、豚が念仏を唱えるようなもの。 「ほとり先輩!」 「私って[変態]だし、モーマンタイ! 大丈夫大丈夫、法律だけは犯さないから! 寸止めするし! 妄想して、空想して、襲い掛かるだけだから!」  イヤッホー、という掛け声をかけながらバッグをぐるぐると回し、スキップ気味に保健室から外へと出て行こうとする。このまま行かせていいものか。確実にこの先輩、他人に迷惑をかけてしまうだろうし。赤松だって困るだろう。でも、 「ヒャッホー!」  この[変態]を止めることなんて出来ないわけで。  ほとり先輩は満面の笑顔と、欲望のオーラを纏って、全力で外へと出て行った。 「……」 「……」  残るは、男二人。しかも、その一人の木島は何もなかったかのように、勉強を続けている。残りのもう一人、俺はどうしようもなく立ち尽くす。反応することは、遅すぎて、かといって愉快に木島に話すことはできないわけで。どうしたものか、と悩む。 「仕方ない、帰ろう」  ということに決めた。ほとり先輩のことは心配といえば心配だけど、警察のお世話になるようなことにはならないだろうと思っておくことにする。その方が、不要な心配事を心に残さずに済む。  木島はそうですか、と呟いて勉強道具を片付け始める。木島も、もうここにいる意味を失ったに違いない。ほとり先輩が、いなくなったわけだから。でも、想像できないのはほとり先輩がテストでいい点を取るという姿。どう考えても、できるようなタイプには見えない。なにより[変態]としてのイメージがあまりに強すぎて、他のイメージが浮かんでこないというのもあるのかもしれない。 「木島はほとり先輩のことってどう思う?」
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加