壱 負け犬も歩けば云々

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 GHQの道化リーダー、長谷部伸也――[プロニート]  GHQの実質的なトップ、天奈ほとり――[変態]  GHQを支えている二年生、赤松愛結――[姫]  GHQの唯一の一年生、木島笹之――[高気圧]  そして、俺――彦坂直彦の記号は[負け犬]。  負け犬。そう呼ばれることに、俺は抵抗を感じていない。実際に俺は、目の前にある巨大な壁に挑むことなく、逃げだした。自分の限界を知ったとも言っていい。いつまでも超えることのできない壁に向かうくらいなら、いっそのことその壁に背を向けてどこかへ行った方が賢いだろう。少なくとも、俺はそう考えて、 逃げだした。負け犬と呼ぶなら勝手にしろ。勝てない試合をしたくなんかない。惨めに負ける姿は目に見えている。  ――と、今でこそあっさりと俺は語るけれど、諦めるときには、それなりの葛藤があったわけで。  昔から、上には上がいるということは理解していた。それでも、俺は中学では常に一番の成績だった。他を寄せ付けない、他の追随を許さない、そんな成績を保持し続けた。だから、俺はまさしく天狗だった。天才、秀才、周りからそう言われると、肯定することはさすがにしなくとも、謙虚に否定することもなかった 。だって、テストで俺がトップになることは周知の事実。揺るぎないことだったわけだし、誇りだった。  だからこそ、俺は迷うことなく、県内でも最も偏差値の高い高校を目指し、入学した。適材適所、俺のいるべき場所は高みであり、高校でも自らの才能で周りを圧倒してやろう――と思った矢先の、高校初の中間テスト。俺は、見間違えでも何でもなく、体調が悪かったというわけでもなく、本気で勉強して、本気でテス トを受けて――平均点を少し上回る程度だった。
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