壱 負け犬も歩けば云々

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 圧倒されるのはむしろ、俺の方だった。県内トップの高校、生徒全員のレベルが違う。中学の時とは、全く異なる世界だった。最初は、その不甲斐なさに苦しんだりもした。俺の妄想では、俺は周りから慕われるという、見事な高校デビューを果たし、最高の青春を送る筈だったんだから。それなのに、俺は周りより少 しできるくらいの、『一般』部類の生徒にしかなることができなかった。悔しさもあった。でも、中間テストの差はどうしようもならないもので、どれだけ勉強をしても、上にいる生徒たちには太刀打ちできるはずがなかった。桁が違う、住んでいる世界が違う、だから俺は上にいる連中を越えようとすることを、断念した。努力す ることを、放棄した。敵わないと分かったから……。情熱をすべて消火させ、凍結させて、俺は頑張らないことにした。それが一番だと思ったから。何もしないことが最も賢く、最も楽しいだろうと思った。誰からも見られるということもなく、誰かを見続けるということもせず、誰からも尊敬されることもなく、誰からも侮蔑され ることもない。でも、それでいい。俺は自分の位置を理解したのだ。  そうして、俺は負け犬になった。  勝つことを目指さずに、後ろに下がった。  それで良かったと、俺は今でも思う。 「ねぇ、暇? 暇でしょー! こっちに来て来て! ほら、ほら!」  勝負しないことを決めた一年生の時に俺、その一年の終業式の後、俺に話しかけて来たのが、ほとり先輩だった。部活になんか入る気はなかったけれど、俺にはぽっかりと穴が開いてしまっていた。だから、部活動の掲示板を無為に見つめていたのかもしれない。それを獲物と見た、ほとり先輩が俺を掻っ攫ったのだ。
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