壱 負け犬も歩けば云々

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     次の日の放課後も、俺は保健室に向かった。何とか付いていける授業、疲れる授業を受けた、微妙に気だるさを纏った体をもって。よく考えると、いつもほとり先輩はいつも元気なわけで。その、変態的な行いをしていない時にも。それは、本当にすごいと思う。恐らく元気細胞みたいなものを持っているのだろう。 「あ。昨日大丈夫だったのか……?」  ほとり先輩で思い出す。昨日はほとり先輩が赤松の家のホームパーティーへと突撃しにいってしまって、GHQは解散となってしまったんだった。止められなかったなぁ、とつい苦笑いを浮かべてしまいそうになる。覚醒してしまった[変態]は何者もとめることはできない。たぶん、いつか逮捕されてしまうかもと俺は思っている。というか、今まで何も起こっていないというのが不思議で仕方ない。 「こんにちはー」  いつものように、保健室に入ると、なぜだか、嫌な予感がした。感覚的に――、違う。本能的に、何か嫌なことが起きるぞと警鐘を鳴らしている。危険、警告。どうしてか分からないけれど、つい身構えてしまう。何かが起こってしまうような気がする。  保健室の中をじっくり見ると、机に両拳を付けてニコニコしているほとり先輩がただ一人。ほかには、誰も来ていない。 「ちーっす!」  元気のいいほとり先輩の挨拶。その二割り増しくらいの元気具合、異常なニコニコ率。これは何かあったな、と推測できてしまうわけで。もしかしたら、昨日とてもいいことがあったのかもしれない。実際、ほとり先輩はそういったことで元気になる人。そういう人。 「ほとり先輩、どうかしたんですか?」  聞くと、待っていましたといわんばかりにほとり先輩は立ち上がり、くるりと一回転。さらに、笑顔を増していき、俺に向かって言葉を投げつけてくる。  その言葉は、俺の心を、揺さぶった。  タイミングとしてはできすぎている。  けど、GHQとして、この道は避けられなかったはずだ。《負け犬》としてならば、輝かしい青春生活の裏道をとぼとぼと歩くだけの生活を送れただろう。けど、今の俺はそうではない。GHQの《負け犬》彦坂直彦なのだ。 「事件です!」
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