弐 姫は三年の恩を三日で云々

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 この高校は県下ナンバーワンと言われるだけあって、賢い高校生がゴロゴロしている。俺のように中学校でトップをぶっちぎっていたような奴で溢れている。木島とかを見ていると、ひしひしとそれを感じる。だからこそ、この学校ではテストの点数が高いということは最大のステータスであり、他の生徒たちの一番気 になる部分。つまり、誰が何点という情報は電流のように流れていき、高順位であることを秘密にするなんてことはほぼ不可能に近い。そもそも秘密にするよりも堂々と点数を公言する生徒の方が多いくらいだ。ここにいる生徒たちにとっては「すごいね」「頭いいね」という褒め言葉ほど嬉しいものはないわけで。だからこそ、そ のために自分が叩き出した点数を掲げ、他の生徒たちと比較する。……俺はそんなことしないけど。負け犬は、そんな風景を見ているだけ。昔とは違うのだ。 「近衛は九九点、香村は九十六点。この数学においての順位は近衛が二位、香村が三位なんだよな」  俺たちの高校のテストは一教科ずつ、順位が当人に知らされる。確かそれによって自分の学力の把握と、やる気を出させるためだとかなんとか。 「四位は八十七点の五人、ですわね」  そのことはもう、近衛が自分で調べたらしい。ほとり先輩が教えてくれた。 「それで、今回のテストでは、少しトラブルがあった、と」  それは俺も覚えている。なんといっても、返されたテストを再回収するということになったのだから。俺のテストもまた、回収された。どうにも橋本が採点ミスで、模範回答が一問間違いだったらしい。だから、本来正解の部分が不正解になっていたり、不正解だったのがたまたま正解になっていたりしたらしい。  俺はどっちにしろ間違いだったから、何の変化もなかったけれど、正解だったはずの問題が不正解になっている生徒、不正解が正解になっている生徒がいたわけで。当然、点数変化、順位の変動が行われたらしい。そういうことは本来あってはならないのだけど、何しろテストの点数にはうるさい生徒が多い学校だ。た った少しとはいえ、点数の差というものは重要に違いない。 「回収される前は、近衛君が九六点で三位、香村さんが九九点で二位だったようですのね」  近衛は正解していて、香村は間違いだった。だから、順位が入れ替わったらしい。  そこで、おかしな部分が表面化する。
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