壱 負け犬も歩けば云々

6/18
前へ
/99ページ
次へ
「まぁ、いいか」  どっちにしろ、今を楽しめればそれでいい。そんなことを思いつつ、俺は保健室の前に到着。保健室は放課後、基本的に機能していない。部活動が盛んではない俺の高校は、怪我をするようなことが放課後起こり得ない。それに、保健医のやる気のなさが有名で、その保健医に診てもらうくらいなら金払って病院へ行く 、と決めている人がほとんどだろう。だから、放課後の保健室は空室――だから、GHQが占拠している。  本来なら、怒られることなのだろうけど、俺たちGHQには[姫]というトランプにおけるジョーカーというかキングというか、最強のカードがいるわけで。[姫]なのにジョーカー扱いってのはとても面白いのかも。ともかく、[姫]の存在によってGHQは保健室に陣取っていることを教師陣に黙認されている。  いろんな意味で、無法地帯。 「こんちわー」  カラカラ、とスライド式の扉を開けると、保健室特有の匂いが鼻に纏わりつく。それと同時に、視界には二人の生徒の姿が存在していることを確認。だいたいいつもの光景、何度も見た風景。一番奥の保健医席に座っているほとり先輩と、中央の机で鬼のようなスピードでテキストドリルを進めている一年生木島。 「……わっす」  チラリともこちらを見ず、適当な挨拶を返す木島に対し、ほとり先輩はスカートをなびかせて回転椅子でぐるぐる回りながら、 「こんりーっ」  と変な発音で挨拶を返してくれた。おおよそ、いつも通り。俺はカバンを二つ並んでいるベッドの手前の方に投げおろして、ほとり先輩の方へと寄っていく。木島は話相手にはならないわけで。木島は違う意味で、GHQに来ているから、仕方のないことだけれど。  対してほとり先輩は積極的に絡んできてくれる。おおよそ変態トークだけど。それでも、話を振れば、必ず返してくれるあたり、とてもありがたい。クラスメイトたちは、そうではないし。木島と、似たような人たちであまりにもつまらない。 「ほとり先輩」 「んー?」
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加