壱 負け犬も歩けば云々

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 ほとり先輩は保健医の机の上に本を何冊か広げていた。雑誌や、普通のハードカバーの本、いろいろな本を。先輩も勉強してるんですね、とは言わない。その本や雑誌はパッと見ですら、いかがわしい本だと分かってしまうから。いかがわしい、いやらしい、俗に言うエロ本。コンビニで奥の方に陳列されている本たち だ。詳しく視線を這わせると、雑誌にはスタイルのいい女性の裸体が所狭しと並んでおり、ハードカバーの本の方にも、どう見ても官能としか読み取れないような文章が羅列していた。どの本も容赦なくエロを晒し、遠慮していない。 「……今日もまたたくさんと持ってきたんですね」  これもまた、いつものことなわけで。ほとり先輩――[変態]の名前を欲しい侭にする人。自他共に認めるエロスの追及者。だから、保健室で何の躊躇いも配慮もなくエロ本を広げていることは、日常茶飯事。もう驚くのにも飽きた。ほとり先輩という強烈キャラクターの奇行には、もう慣れた。慣れたといっても、驚かないだけであり、違和感はバリバリあるのだけれど。「んんー、どう? ヒコヒコ、この中ではどのコがタイプ?」  手前にある雑誌を指さすほとり先輩。にやけて、とかふざけて、とかではなくナチュラルな会話としてそういった質問をほとり先輩はしてくる。何の躊躇いもなく聞いてくるので、一瞬別のことかと思ってしまうことも少なくない。歩く放送事故。 「えーっとですね……」  雑誌に深く目線を突き刺す。そこには、十人ほどの女性が一糸纏わぬ姿で読者を性的に誘惑していた。幼い顔立ちをしながら豊満な胸を持っている女性、見事な体のラインを持っている女性、ボーイッシュな雰囲気を持つも可愛らしい感じの女性……などなど。  俺は五秒くらい考えてから、中央の茶髪の大人しそうな子を指さした。 「その『ゆまちゃん(20)』で」 「へぇー。まぁ、それっぽいね。ヒコヒコって結構安全牌出します的なとこあるしね。この子ならそれなりに平均的だね。ちなみに私はこのロリ巨乳がいいなー、体が柔らかそう抱きしめたいふにふにしたい」  ふむふむ、といきなり考察しだした後欲望を抑えきれなくなってるほとり先輩。それよりも、 「ほとり先輩、だからヒコヒコってのはやめてください」
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