壱 負け犬も歩けば云々

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「私が言いたいのはね、生まれてから私たちには特定の役割のようなものは一切存在しないってこと。ゲームみたいに『剣士』『魔道士』『修道士』みたいな、ジョブはないじゃん。だから、生まれてから、生きていって、やることや起こること、それは無限にあって、どうなるか分からないものでしょ? だから、自分 自身を固定概念で縛り付けていたら、多くの可能性を消してしまうことになるよ?」  雑誌の女の子たちから、その難しい話への発展が俺には理解できず、曖昧に「はぁ」と俺は声を漏らした。それに対してほとり先輩はさらに言葉を続けた。 「このGHQに入ってもらうときにも言ったけど、このGHQは特定の活動方針は決めてないの。それは、何でもできるって意味でそうしているから。そういうのが先生たちには理解できないみたいだけどね」  そういえば、ほとり先輩は今でもこのGHQを正式な部活にしようと、先生たちに対して激しく交渉しているらしい。許可が下りるわけがないのに、それでも諦めてないらしい。 「でも、例えば、どういうことをするんですかね?」  すると、俺の後方――机のほう、木島が聞いてくる。 「僕はこのGHQに勉強に来ているんですよ。この空間は、勉強に適していますからね。でも、先輩との約束もありますから、活動に参加はします」  シャーペンを手中で弄ぶ木島。くるくると回るシャーペンは見事な軌道を描いている。というか、それよりも木島が自分から喋りだしたことに、俺は驚くわけで。木島って、だいたい勉強しているから絡み辛いし。 「そういえば、ササリンとヒコヒコは具体的な活動には一度も参加してないんだっけ」  思い出すかのようにほとり先輩が手をぱちんと合わせる。俺と木島がGHQに入ったのはほぼ同時期。それよりも前にいたのは、GHQの切り込み隊長ほとり先輩、お姫様の赤松、役立たずリーダーの三人。その三人だったGHQ時代の話は、噂でしか聞いたことのないものだったから、どういうことをしていたかとい うことは一切知らないわけで。 「俺も知らないですね……GHQ自体は有名だったみたいですけど」
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