Act.1 三人の泥棒

11/43
前へ
/214ページ
次へ
  *    歓楽都市。魔都。世界中の金が集まる街。  様々な異名が語られる、ウェノビア。アルウェイ国の一地方都市にしかすぎないこの場所が、そう呼ばれるようになったのは、七年前に行われていた隣国リギとの戦が終戦してからだった。  当時、リギとの戦争で絶大な被害を被ったアルウェイは、速急に国力を回復する必要があった。そこで造られたのが、この自治都市ウェノビアだ。  確かにアルウェイ国に属しながら、アルウェイの法律が意味を成さない自治都市ウェノビア。結果、世界中の「表では言えない」顔を持った企業家達は、法の緩いこのウェノビアに集まり、こぞって金儲けを始めた。見返りにアルウェイ政府は、彼らから莫大な税金を納められている。  カジノや劇場、オークション。  たかだか数年で、この街で買えぬ快楽はないと言われるまでに、ウェノビアは発展した。この街を牛耳ったものは、世界の経済を牛耳る。それはまんざら比喩でもない。  しかしもちろん、「表では言えない」顔を持った企業家達は、クリーンな営業で儲けた金だけでは満足しなかった。  ホテルの地下ではブラック・マーケットが開かれ、人身売買が行われ、時に公然と人が消える。  闇の世界に足を踏み入れた者のみが知る、ウェノビアのもう一つの顔。  華やかなネオンの裏に隠された、法の届かない混沌の都市。それが、ウェノビアだった。  ウェノビアで起きた法律違反は、大抵は水に流される。一応自治警察が配備されているが、そんなものはただのお飾りだ。  ウェノビアに集まった企業家達は、日夜人知れずライバル企業と攻防を繰り広げていた。  
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

579人が本棚に入れています
本棚に追加