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三人は、ホテル・ラウンドイットの前庭を、散歩しているようなふりをして、敵地をうかがった。
今夜のラウンドイットの客は多い。
ウェノビア1と名高い女性歌手、サラのコンサートが開かれるためだ。
それを知って、三人は今夜、ここに忍び込むことに決めた。
人気歌手のコンサートともなれば、警備は断然厳しくなるだろう。しかし、それはサラの周囲に限ってのみだ。逆に、彼らの狙うホテルの社長室は、警備が手薄になると、彼らはふんでいた。
人が多いのもまた、紛れ込みやすいということ。
ホテルの客層は、すべて上流階級だった。見るからに高そうなドレスやスーツを着込んだ男女が、ホテルの中に飲み込まれていく。
「うあー……、すごいよエジー。毛皮と宝石身に纏ったブルドックが、大笑いしてる」
双眼鏡を目に当てて、ニコがぼそりと言った。傍らのエジーディオが、慌てて双眼鏡をひったくる。
「ばっか、こんな目立つとこで、堂々と双眼鏡覗いてんじゃねぇよ」
しかしちょっと興味をそそられて、自分もニコが見ていた方を覗いてみた。なるほど、玄関口の階段で、頬の肉がたるんだ中年のオバサンが、目が痛くなるほど赤いカクテルドレスに、威嚇するダチョウみたいな毛皮を羽織って、高笑いをしているところだった。
「私にも貸してください」
エジーディオから双眼鏡を受け取ったカオルが、同じようにちらりと玄関口を確認した。すぐに目を離して、双眼鏡を懐にしまう。
「ふむ。やはり、ホテルの客に相応しくない格好をした人は、警備員に止められてしまうようですね」
今も、よれよれのスーツを着た男が一人、いかついガードマンに捕まって奇声をあげていた。
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