Act.1 三人の泥棒

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   カオルはやれやれと前髪を掻き上げた。 「仕方ありませんね。確かに今更ですから、あきらめます。やっぱり二手に分かれましょう」 「ああ、何も全員が正面から忍び込むこともねぇよ」  エジーディオが腕を組んでうなずいた。  二手に別れれば、万一どちらか一方が失敗してもまだ望みを残せる。 「別れる前に確認です。今回のエミリーの命令は?」  小学校の教師みたいに、人差し指を立ててカオルが問いかける。ニコが手をあげて答えた。 「はぁい、社長室にあるコンピュータからー、最近のメールのやり取りしたデータを盗んでくることー」 「はい、よくできましたニコくん」 「先生できたからお菓子ちょうだい」  両手を出してへらりと笑ったニコの手を、カオルがピシャリと叩く。 「先生はスパルタなので飴はありません」  ニコが舌を出してしかめっ面をした。 「ではエジーディオくん、その際気をつけることは?」 「なんだこの小芝居俺もやらなきゃいけねぇのか? メールのデータはロックされてる方を盗んでくりゃいいんだろ。後、時間あったら本社の方の取引記録も、盗んでこいって言ってたな」  エミリーが寄越す命令は、大抵がアバウトだった。どこどこのアレ盗んできて。ロックのパスワード? ンなもの知らないわよ。後は臨機応変にやってちょうだい。コレで終わりだ。別に確認するほどのことでもないと思う。  ちなみに、盗んでくるものがどういう意味を持つのかも、彼らは知らない。  けれど彼らはエミリーに口出ししない。言われたことはやる。  他にやることもないからだ。  
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