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カオルはやれやれと前髪を掻き上げた。
「仕方ありませんね。確かに今更ですから、あきらめます。やっぱり二手に分かれましょう」
「ああ、何も全員が正面から忍び込むこともねぇよ」
エジーディオが腕を組んでうなずいた。
二手に別れれば、万一どちらか一方が失敗してもまだ望みを残せる。
「別れる前に確認です。今回のエミリーの命令は?」
小学校の教師みたいに、人差し指を立ててカオルが問いかける。ニコが手をあげて答えた。
「はぁい、社長室にあるコンピュータからー、最近のメールのやり取りしたデータを盗んでくることー」
「はい、よくできましたニコくん」
「先生できたからお菓子ちょうだい」
両手を出してへらりと笑ったニコの手を、カオルがピシャリと叩く。
「先生はスパルタなので飴はありません」
ニコが舌を出してしかめっ面をした。
「ではエジーディオくん、その際気をつけることは?」
「なんだこの小芝居俺もやらなきゃいけねぇのか? メールのデータはロックされてる方を盗んでくりゃいいんだろ。後、時間あったら本社の方の取引記録も、盗んでこいって言ってたな」
エミリーが寄越す命令は、大抵がアバウトだった。どこどこのアレ盗んできて。ロックのパスワード? ンなもの知らないわよ。後は臨機応変にやってちょうだい。コレで終わりだ。別に確認するほどのことでもないと思う。
ちなみに、盗んでくるものがどういう意味を持つのかも、彼らは知らない。
けれど彼らはエミリーに口出ししない。言われたことはやる。
他にやることもないからだ。
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