579人が本棚に入れています
本棚に追加
*
カオルは素知らぬ顔で、ラウンドイットに入っていく客達に交じり、彼女に近づいた。
たるんだ頬の肉。紅いカクテルドレス。威嚇するダチョウみたいな毛皮を羽織った、ニコ曰く、「ブルドック」さんだ。彼女は先ほどから、同じ場所に立ち尽くしていた。正面玄関に入る、階段の上だ。通りがかる顔見知りに話し掛け、時折高笑いをこぼしている。
それでも彼女自身が、ホテルに入ることはない。
要するに彼女は、エスコート待ちなのだ。上流階級の女性が、こういった場所にひとりで入るのは、はしたないことだとされている。事前に誰かを誘うことに失敗したのだろう。だから、ここで手をこまねいているのだ。
(お互い入れなくて困ってるんです。協力してもらいましょう)
カオルは内心でほくそ笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!