Act.1 三人の泥棒

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   ブルドックさんがカオルに気づく。目があったカオルは、微笑を浮かべた。美しい顔立ちの彼が、優しげに微笑めば、そこには花が咲く。ブルドックさんが思わず顔を赤らめた。 「失礼、マダム。先ほどからお見受けしていますが、誰か待っている方でも?」  胸に手をあてて礼を取れば、マダム・ブルドックは視線を泳がせた。 「え、えぇ。……連れが、急な用事でこれなくなってしまいましたの」  ひどいガラガラ声だ。礼の形に頭を下げたカオルは、顔をしかめる。しかし次の瞬間、頭を上げた時には、女殺しの笑みでその顔に花を咲かせていた。 「マダムとの約束をすっぽかすなんて、その相手は天に唾を吐くような愚か者ですね」 「まぁ……」 「私ならそんな勿体ない真似はしないな。例え私が破産するようなことになっても、私はマダムとの約束を取りますよ」  さりげない仕草で、マダム・ブルドックの、ソーセージが生えたロールパンみたいな手を取る。 「こんな美しい人の隣に立つ栄誉をいただけるなら、私は死んだってかまわない」  腰に手を回す。引き寄せるつもりが、寸胴の腰はどこをつかめばいいかわからなくて、ちょっと焦った。しかしそんなことなどおくびにも出さず、カオルはマダム・ブルドックをぐ、と自分の身体に引き寄せる。 「どうです? 私とご一緒しませんか? 貴方のような人の傍なら、どんな音楽も天上の調べになります」  とどめの一撃。耳元に、低い掠れた声でささやく。  マダム・ブルドックは腰がくだけそうになりながら、是も非もなくうなずいた。  カオルは満足そうな顔をして、マダム・ブルドックの手を取り、玄関口へエスコートする。  
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