Act.1 三人の泥棒

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   ふいに、風に乗って人の声が聞こえてきた。  二人は慌てて、近くにあったゴミバケツの裏に隠れる。  表からやって来たのは、作業着を着た二人組の男だった。彼らの持つ箱の中で、瓶がこすれあう音がしている。  ホテルに酒を運ぶ配達人らしい。 「まったく、やってられませんよね」  二人組のうち、若い方が、いかにも重たそうな酒の箱を地面に置いた。箱の中で、酒の瓶が悲鳴をあげる。 「おいおい、もっと丁寧に扱えよ」  年輩の方が、呆れたようにたしなめた。けれど若い方はどこ吹く風だ。下唇をつきだして、不満げにホテルを見上げる。 「だって先輩~。このご立派な建物ン中じゃ、おっさんやおばさんが、いい服着てうまいモノ食ってうまい酒飲んで、あら嫌だわオホホとかやってんですよ? あー嫌だ嫌だ。なんでそんな奴らのために、俺達が汗水たらして働いてやんなきゃなんねぇんですか」  ぶーぶー不平をたらす後輩に、先輩が何も言わなかったのは、同じような思いを抱いているからだろう。  快楽の都。人はこの街をそう呼ぶが、ウェノビアに住む者で、本当に快楽を味わっているのは、上流社会の一握りの人間だけなのだ。  噂だけを聞いて、この街でひとつ名をあげてやろうと、田舎から出てきたはいいが、労働者に落ちぶれてしまった者は少なくない。  彼らもその口に見えた。  
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