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事前に予想していた通り、社長室へ向かう通路の警備は手薄だった。おそらく、その大半がサラのコンサート会場の警備に回されているのだろう。
ホテルの外観と同じく、作業員通路の壁も白一色で統一されていた。リノリウムの床はねずみ色だ。一見、整然としているように見えるが、閉ざされたドアの脇には、ダンボールの箱が積み重なっていた。通路は、大人が三人、ならんで歩く程度の幅しかない。そこにダンボールが幅を利かせていれば、狭いことこの上なかった。
エジーディオはダンボールを倒しそうになって、あわてて両手で支えた。
「気をつけてよねー」
横目でエジーディオを見ながら注意したニコが、今度はワックスがけの行き届いた床に滑って転ぶ。べしゃりと肌を叩きつける痛い音がした。
「てめぇこそ気をつけろよ」
道路で潰れたカエルみたいになっているニコを、エジーディオは呆れて見下ろす。
「シッ」
カオルが鋭い息を吐き出した。
曲がり角になっている壁に、背を這わせて角の向こうを覗き見る。警備員の黒服を着た男達が四人、角の向こうでなにやら話し合っていた。
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