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そう、一見、見た目も人種も年さえばらばらだが、実は彼らは仕事仲間だった。
エジーディオの運転する車で、三人仲良く仕事先に向かっている途中だ。
車内は無言。エンジンが響かせる重低音に、カーラジオから流れ出す、スローテンポの曲がかぶさる。
カオルがふと雑誌から視線をあげ、ラジオのスピーカーに目をやった。
手を伸ばして、ボリュームを大きくする。
高く澄んだ少女の歌声が、ラジオのスピーカーから流れ出し、車内を満たした。
メアリーは窓のそば
今日もまちぼうけ
冷たくなった
ストレート・ティーと
編みかけのマフラー
椅子の上に置いて
丘の向こうを見つめる
機械を通して歌う、少女のメゾ・ソプラノは、少し掠れて聞こえた。歌声は、どこまでも透明。昨今流行の、色っぽい女性シンガーと比べれば、濁った泥水と澄んだ清水といったところか。
窓の外を流れる、けばけばしいネオンの灯りを見やって、この街には少々不釣り合いなBGMだな、とエジーディオは思った。
表のきらびやかさの中に、欲望で黒く染めた腹を隠す。それがウェノビアだ。裏も表もないほど透明な少女の歌は、蜃気楼みたいに浮いて聞こえた。
丘の上にいつか
彼の影が立ちやしないかと
叶うわけのない願いを胸に
メアリーは今日もまちぼうけ
着る人のないマフラーを編む
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