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「だれのうた?」
眠っているとばかり思っていたニコが、後部座席でのそりと起き上がった。
再び膝の上の雑誌を開きながら、カオルが答える。
「レチタ・ディーバ。最近じわじわと人気をあげてる少女歌手ですよ」
「ふぅん……」
興味無さげに呟いて、ニコは口もとにいやらしい笑みを浮かべた。
「なぁんか、こういう歌、カオルが聞くのって意外ぃ。もしかしてぇ……カオルの女? あ痛っ」
座席の間に身を乗り出して、からかうようにカオルの顔をのぞき込んだニコは、でこぴんによって報復を受けた。
「人聞きの悪いこと、言わないでくださいよ」
憤慨したカオルは鼻息を荒くする。
「レチタ嬢は十四歳ですよ? 人を勝手にロリコンにしないでください」
「でもぉ、こないだ歌手にオンナ出来たって言ってたじゃん?」
「あれはカミーラ・ディランのことです」
「げっ、カミーラかよ。俺、彼女の歌好きだったのに」
ハンドルを回しながら、エジーディオがうなった。今度から彼女の歌を、どんな顔して聴けばいいのかわからない。
カオルはその容姿や物腰から、やたら女受けが良かった。本人も女好きなので、恋人は両手の指じゃ足りないほどいる。本人曰く、「遊びじゃない人にはちゃんとお断りしているので、問題ありません」なのだそうだ。
エジーディオの知る限り、カオルは確かに女好きだが、本気で誰かを愛することはなかった。
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