Act.1 三人の泥棒

5/43
前へ
/214ページ
次へ
  「だれのうた?」  眠っているとばかり思っていたニコが、後部座席でのそりと起き上がった。  再び膝の上の雑誌を開きながら、カオルが答える。 「レチタ・ディーバ。最近じわじわと人気をあげてる少女歌手ですよ」 「ふぅん……」  興味無さげに呟いて、ニコは口もとにいやらしい笑みを浮かべた。 「なぁんか、こういう歌、カオルが聞くのって意外ぃ。もしかしてぇ……カオルの女? あ痛っ」  座席の間に身を乗り出して、からかうようにカオルの顔をのぞき込んだニコは、でこぴんによって報復を受けた。 「人聞きの悪いこと、言わないでくださいよ」  憤慨したカオルは鼻息を荒くする。 「レチタ嬢は十四歳ですよ? 人を勝手にロリコンにしないでください」 「でもぉ、こないだ歌手にオンナ出来たって言ってたじゃん?」 「あれはカミーラ・ディランのことです」 「げっ、カミーラかよ。俺、彼女の歌好きだったのに」  ハンドルを回しながら、エジーディオがうなった。今度から彼女の歌を、どんな顔して聴けばいいのかわからない。  カオルはその容姿や物腰から、やたら女受けが良かった。本人も女好きなので、恋人は両手の指じゃ足りないほどいる。本人曰く、「遊びじゃない人にはちゃんとお断りしているので、問題ありません」なのだそうだ。  エジーディオの知る限り、カオルは確かに女好きだが、本気で誰かを愛することはなかった。  
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

579人が本棚に入れています
本棚に追加