Act.1 三人の泥棒

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   もう彼は帰ってこない  風はささやく  草花はまちぼうけの  メアリーを笑う  それでもメアリーは窓のそば  帰らぬ人の帰りを待つ    再び静まり返った車内を、少女の歌声が包みこんだ。  ニコが前座席の間に腕を渡し、ことんと頭を乗せる。歌に聞き入っているようだ。座席を掴むニコの指が、スローテンポのリズムを刻んだ。 「珍しいですね」  雑誌に視線を落としたまま、カオルが言う。 「ニコが、歌に聞き入るなんて」 「……うん。なんか、落ち着くね、このコの歌」  清らかな少女の歌声は、ごみごみしたウェノビアの空気とは、まるで違った穏やかさを、車内に呼び込む。  カオルも目を細めて、雑誌を閉じた。 「そうですね。なんだか、落ち着く歌声です」    
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