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エジーディオの車は、ホテル前の通りに止まっていた。路肩に止められた、シャープなラインの黒い車を、街灯の光が照らしている。
「さて、では行きますか」
スーツのネクタイを締め直して、カオルが車のドアに手をかけた。
「おら。夢の時間はもう終わりだ、行くぞ、ニコ」
ニコはシートの間でふやけた寒天みたいになっていた。エジーディオが彼の首根っこを掴んで、起き上がらせる。
ニコはうなった。
「うーん、エジーの乱暴な運転で、頭打った。僕もうだめ。カオルとエジーだけで行ってきて」
「安心なさい、手負いの貴方を置いて行くもんですか。私達はいつでも一緒です」
口では優しいことを言っているが、要するに「てめぇだけ楽はさせねぇ」という意味だ。
後部座席に逃げ込もうとするニコを、カオルがひっ捕らえた。そのままニコの脇に手を入れて、助手席から引っ張り出そうとする。ニコがやる気のない悲鳴をあげた。
「きゃー、いやー、やめてー、助けてエジー、カオルがケダモノにー、襲われるー」
「ばっ、お前らこんな狭いところで暴れるなっ」
逃げようともがくニコにひっかかれて、エジーディオは怒鳴る。しかし暴れる二人は止まらない。
「気色悪いこと言わないでくださいっ」
「いやん、ばかん、そんなトコ触らないでー」
「あほですか!」
逃げようともがくニコと、そんなニコを引っ張り出そうとするカオルとで格闘になった。どさくさで、ニコの足がクラクションを踏む。
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