1 女か虎か

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1 女か虎か

「女か虎か・・・」  目の前にいる男が、ポツリと呟いた。 「はい?」  俺は、顔を上げた。  男はにっこりと笑って俺を見る。 「アメリカのミステリー作家、フランク・R・ストックトンが1882年に発表した短編小説さ」 「はあ・・・」  どうしていきなりそんな話をするのだろうか。  俺の疑問の表情に気付かないのか、男は淡々とした口調で続ける。 「舞台はとある未開の王国。王の権力は絶対的・・・。その国では、トラブルが起こったとき、当事者が闘技場に引き出される」 「はあ」 「その闘技場には二つの扉が有って、一つには飢えた虎が、もう一つには美女が隠されている。当事者はどちらかを選ばなければいけない」  俺は、相手の意図がつかめなくて、その顔を凝視した。 「さて、その国である時一人の身分の低い男が王女と恋をした。しかし、身分違いの恋は大罪だ。その恋は王に露見し、青年は闘技場に立たされることになった。  王女はなんとかどちらに虎が入っているかをつきとめ、青年に合図を送った。右だ、とね。青年はその通り、右を選んだ・・・」  男は、そこで言葉を切った。
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