ハジマリの夏

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頬を強打する音がした。   母が父にまたなぐられたのだ。私はたまたまその場に居合わせてしまった。 別に親のケンカに居合わせることはコレが初めてではない。   原因は父の浮気である。 その後、二人は二言三言口論すると父が家を出て行った。 きっと今夜も愛人の所へ行くのであろう。 父が出て行った後母は我慢していた涙をながす。ただ、ただながす。 痛い、辛い、さみしいわけではないわけじゃないが、母は別の理由で泣いていた。 …というより、生理的に泣いていた。本能で泣いていた。 そうして私に「いつもごめんね。唯華はこんな風になっちゃだめよ」とグシャグシャな顔でそう言う。   今思えば、この母の言葉があったからこそ、私は今まで荒まずにすんだのかもしれない。   中3の冬、そんな母が死んだ。 過度なストレスと過労による突然死だった。 それを機に父は愛人と再婚し、私は祖母の元へ養子に出された。 それから、私は就職しようとも考えたが、親戚の支援と生前の母の意向により西浦高校への進学を決めた。   高校一年の夏休み、私はお母さんの墓参りに来ていた。   “お母さん…ちゃんと高校入ったよ。お母さんの望みどおり、高校に通っているよ…”   「…あれ、坂城?」   呼ばれた方を見ると同じクラスの栄口クンが立っていた。   「栄口クン…?」
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