私の願望

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 汚れも目立つようになってきた階段をゆっくりと上る。上った先に続く狭い通路をほんの2、3歩歩いてすぐに着く。スグルがいる部屋。 「…………ただいま」 「あれ?ユウ?どうした……」  玄関を過ぎてすぐにあるリビングでスグルは原稿を書いていた。私に気付くと立ち上がって驚いたように目を丸くしていた。 「どうしたんだ?」  一度飲み込んだ言葉を一呼吸置いてからスグルは吐き出した。 「うん……駅でさ…………」  私は今さっき起こったことを全て話した。スグルは私の肩を抱いて安心させるように、幼い子どもを慰めるように話が終わるまでそうしていてくれた。 「そっか……とりあえず、着替えるか?」 「うん」  クローゼットから適当に服を取り出して、落ちきらなかった血がまだついているスカートを脱ぎ捨てる。血が変色して赤茶色っぽい斑模様の汚れをつくっていた。  私はただ、その汚れとあの光景を頭のなかで反芻していた。
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